脱!マイナス思考。~私の母はパチンコ依存症~ -4ページ目

暗いトンネルの先に見えたものは 3

暗いトンネルの先に見えたものは 2 からの続きです。



職場に闇金からの嫌がらせの電話がきていたことを、母は知らなかった。




「こう電話が続くとね・・・○○さん(母)には長く勤めてもらっていたから

目を瞑ってきたけど・・同僚からもお金借りてるんでしょ?」




会社の上司からこう言われ、パートだった母は辞めざるを得なくなった。




「これからお金を返していかなきゃいけないのに・・・

どうしよう、どうしよう・・・・この歳で働ける場所なんてそうそうないのに。」


「同僚からもお金を借りていたって・・・それ、本当なの?」


「ちょっとだけだけどね。」


「・・・呆れた。よくもまあ、毎日顔を合わせられたね?

私なら考えられない。」





10年以上も勤めていた会社。母はそこで古株として働いていた。

小学生の頃から、早朝に出勤していく母の後ろ姿を見て私は育った。


離婚する以前から家には全く帰ってこない父。

妹と二人だけで、母の用意した朝食を食べる日々が続く。


学校へ行く前に「授業で必要なモノが見当たらない」と

母の職場へ駆け込んだことが何度もあった。


いつも温かく迎えてくれた母の同僚の人達の笑顔が頭に浮かび・・・

その人達にまで迷惑をかけていることが本当に申し訳なかった。




「情けない・・・本当に情けない。

職を失って当然だよ。闇金云々の話じゃない。人として間違ってる・・・。」


「お姉ちゃん・・・どうしよう。

家賃だって払わないといけないしサラ金の支払いだってあるのに。」


「・・・・・・・・・・・。」


「また兄貴達に電話して相談するしかないかな・・。」


「ちょっと待って!とりあえず働くところを探すしかないでしょ。」


「この歳で働くところなんてないよ・・・。」


「探す前から諦めてどうするの?とりあえず探しな!

私は私で考えるから。」




が、現実は厳しい。


50歳を過ぎ、車の免許もなければ資格があるわけでもなく・・・

そんな女の勤められる会社はなかなか出てこなかった。


相変わらず闇金からの催促・嫌がらせの電話は続き・・・

郵便受けには闇金のDMが溢れんばかり。中には電報まで送りつける業者もいた。


生きるということはお金を必要とする。


減っていくお金。

鳴り続ける電話。

溜まっていくDM。


母の体調はどんどん悪くなり、ガリガリだった体がさらに痩せていった。




「ゆず!家の外に黒い車がいるの!

きっと中から私のことを見張ってるんだわ!どうしよう!?」





その車は単なる路上駐車の車。


こんな電話をかけてくるほど母は

周囲のささいな変化にも怯えるようになっていたのだ。




「俺の知りあいが今、人を募集してるんだ。

お義母さんのことを話してみようかと思うんだけど・・・。」


「えっ・・・年齢制限とかないの?」


「50歳までだからオーバーだけど・・・なんとかなるんじゃないかな?」


「・・・・・・・なんだか素直に喜べない。」


「どうして?仕事が無かったらお金も支払っていけないだろう?」


「クビになった理由言ったよね?同僚からもお金を借りていたんだって話。

もしまた同じことを母がやったら貴方の立場が・・・。」


「それは俺も思ったよ。でも今は一刻を争うんだ。

お母さんも今回のことで懲りただろうし、俺からもその辺は強く言っておくから。

面接、受けてみなよ。」


「うん・・・ありがとう。」




婚約者である彼は、闇金にまで手を出し、職を失い・・

家の電気もつけずに怯えている母を見かねて就職先を世話してくれた。




「なんだ○○君、結婚するのか~。知らなかったよ。

こりゃうかつに○○君の悪口言えないな。お義母さんなんだもんな。」





面接の際、母はこう言われたそうだ。




「ゆず・・・○○さんのおかげでなんとか働けることになったよ。

お母さん、死ぬ気で頑張る!頑張るから!」


「うん。くれぐれも彼の顔に泥を塗ることはしないでね。」


「分かってるよ。お母さん頑張るから・・・頑張るから・・・・。

もう、ゆずを泣かせたりはしない。お母さんはアンタの泣き顔を見たくないんだよ。」





目に涙を浮かべる母の顔を冷静に見つめる私がいた。


立ち直って欲しいという気持ちとは裏腹に・・・・

もう母のことを、心の底から信じることが出来なくなっている自分がいることに

私は気づいていた。


そう、ずいぶん前から・・・・。


なんともいえない不安を抱えたまま新しい年を迎えようとしていた。



つづく。

暗いトンネルの先に見えたものは 2


※今現在、「闇金」などで困っている方※


この話は4~5年前の話なのであまり参考にはなりません。

また、この時の判断・行動が正しいわけでもありません。

あくまでも私の経験を書いているだけなのでご了承くださいねん。




暗いトンネルの先に見えたものは 1 からの続きです。




当時、「闇金」の存在はまだあまり知られていなかった。




「伯父さんが言っていた方法以外、何かないものだろうか・・・。」




当時パソコンを持っていなかった私。


インターネットなら何か分かるかもしれないとネットカフェに行っては

「闇金」という文字を打ち込み検索をかける。


もう母の為ではない。

母に振り回されている親戚の為。自分の為。

そして私と一緒に人生を歩もうとしてくれた彼・彼の両親の為であった。



警察には叔母が母に付き添って行ってくれたが



「そんなところから借りた貴方も貴方だよ。」


「取り立てが一歩でも家に侵入してきたら通報して下さい。」


「もうそんなところから借りちゃダメだよ。」



警察の消極的な対応に叔母は




「困ってるんです!なんとかしてくれませんか!?」





何度も訴えたが、その間も肝心の母は黙って下を向いたままだったという。


どこか人事・・・


そんな様子の母に一喝を入れたのは消費者金融の相談所の係員だった。




「闇金融からお金を借りたのは・・・貴方でしょ?違う?」




付き添った叔母や私が一生懸命係員に説明している間も

キョロキョロと辺りを見回し、落ち着きが無い母。




「そうです・・・。」


「さっきから娘さん達の話しか聞いてないんだよね。

貴方は・・・消費者金融(サラ金)からお金を借りれなくなったから

闇金に手を出したんでしょ?違う?」


「そうです・・・。」


「サラ金から借りれなくなる手続き、娘さんがしたんだろうけど・・・・

貴方も納得してサインしたんじゃないの?」


「しました・・・。」


「そうでしょ?じゃ借りちゃいけないでしょ。

何のための手続きなのさ。お金までかけて・・・。」


「・・・・・・・・・。」


「裏切りっていうんだよ、こういうの。今だって貴方は「人任せ」だ。

対処法を教えたって、貴方が借りちゃったら意味がないんだよ?

本当に大丈夫なのかい?」


「はい。すみません。」




この時私は、この係員があの時の・・・

サラ金からの借り入れをストップする際に接した人と同じ人だったことを思い出した。




このおじさん・・・私のこと笑ったんだよな。

子供の借り入れを止めたい親はたくさん見てきたけど、逆のパターンは珍しいって・・。




結果として、私の取った行動が母を闇金へと走らせてしまったのだ。

今までのことを思い出した私は・・・力なく笑った。


私が母へと渡したお金は「死に金」になったのだな。と。


闇金へは元金と相談所で計算した金利を合わせて送金することとなった。

その額は合計で20万円弱。


母にそんなお金があるわけもない。

私が支払うしかないと思ったが・・・結婚前の私にお金を出させたくないと

伯父達が代わりに支払ってくれた。


闇金から送金を受けていた銀行口座はすべて解約。

これは「押し貸し」といって勝手に振り込んでくる場合を想定してのことだった。




「これから頑張って返しますから。」


「当たり前だ!パチンコへ突っ込む金があるくらいなら1円でも返してもらうぞ。

滞納している家賃は大家と相談して分割で話がついたから。

毎月家賃に1万円上乗せして払え。いいな?」


「はい・・・。」



「闇金から催促の電話が来てもきっぱり断るんだぞ!」


「私・・・怖い・・・」


「・・・今頃怖いと思うようになったのか。

俺達はもっと前から怖い思いをしてるのに・・・。

家に来るとか言ってもそれは脅しだ。いいか?きっぱりと断るんだぞ!」


「・・・・・はい。」


「大家さんにもお詫びに行きなよ。

追い出されても当然なところを分割でいいって言ってくれたんだから。」


「うん・・・・。」




母を家へと送り届け、長い1日が終わった。




「伯父さん・・・これ。」




私は伯父へと茶封筒に入ったお金を差し出した。




「ん?なんだこの金は。」


「20万あります。母がいる前では渡しにくかったので。

私と妹が家を出た際に貸してくれたお金・・・。」


「・・・・・・・・・。」


「受け取ってください。本当にありがとうございました。」


「これ、貯めたのか?」


「2人暮らしって意外と貯金出来るもんですよ(笑

母に教えてやりたいくらい。」


「・・・・・・・受け取れないよ。

これは大事に使いなさい。」


「そういう訳にはいかないです。今回だって伯父さん達に負担をかけてるのに。」


「ゆず・・・お前はしなくてもいい苦労を今までしてきたんだ。

これから結婚するのに金は必要だろう?

金はあっても困ることはない。」



「伯父さん・・・・。」


「絶対に幸せになれ。それが俺からの条件だ。」


「・・・・・ありがとうございます。伯父さん・・。」




それから間もなくのことだった。


母が解雇されたという連絡を受けたのは。



つづく。

暗いトンネルの先に見えたものは 1

えー、久しぶりすぎてうまく書けないかもしれません(苦笑

暗い話が嫌いな方はスルーを。

人の不幸話が好きな方は・・・お奨めします(笑


ちなみに再会の果て 10 からの続きです。




「死んでよ。私の前からいなくなってよ。」






しばしの沈黙の後、母が押し殺すような声で言う。




「私だって・・・死ねるものなら死にたいよ。。。」








そして両手で顔を覆い、泣き始めた。




「死ぬことすら出来ないんでしょ。

ただ現実から目を背けてパチンコして・・・。」


「お姉ちゃんになら・・・殺されてもいいわ。」


「ははは。

生きることも死ぬことも・・・全部人任せ。ほんと・・・呆れるわ。」


「うっうっうっっ。。。」


「こっちが泣きたいよ。」


「ゆず・・・お前の気持ちも分かるが今コイツが死んだところで解決するわけじゃない。

とりあえず対策を考えないと。。」


「あ、はい。そうですね。」


「お前・・・一体何社から借りてるんだ?正直に全部言え!

隠したところで何の得にもならないんだぞ。」


「・・・・分からない。」


「分からない?どうして分からないんだ?」


「借りたところから催促の電話が来て、返せないって言ったらまた違う業者を紹介されて・・・

そんなことの繰り返しだから分からなくなっちゃった。」


「・・・・・・・異常だな。」






母が持ってきた数枚の紙切れ。

そこには走り書きで複数の個人名、銀行口座、金額などが書かれていた。

金利が書かれているわけでもない。



「2万→1万5千円

10日後に1万」





こんな感じだ。


2万円の借り入れのはずが、実際には1万5千円。

そして10日後には1万円を利息として支払うという意味だという。


正常な人間ならば、手を出さない。出すはずがない。

やはり母は異常なのだ。


お金を借りたい一心で電話をし、メモをとったのだろう。


銀行へ急いでお金を引き出しに行く母の姿が目に浮かび・・・

どうしてこんな親の元に生まれたのかとため息をついた。




「全部で4社か・・・通帳持ってこい!

振り込まれた金額を見てみないと分からないだろう。」


「これ・・・・。」


「ん!?この○○って名前は何だ?

お前の出したリストに書かれてないぞ!」


「あっ、そこは大丈夫。」


「何が大丈夫なんだ?」


「そこは闇じゃないから。電話もそんなに来ないし。

この前1万払ったからまた貸してくれるから。」


「はあ?」


「何言ってるんだお前?

闇だとか闇じゃないとかの問題じゃないんだよ!

借りてるところを全部言えって言ってるんだ!」


「だって・・・そこは結構貸してくれるところだから残しておかないと・・。」






この言葉に一同絶句した。


この状況になってもこの言葉。

「自力で返す」という考えが、母の頭から欠落している。


まるで子供。




「狂ってるね・・・私には理解出来ないよ。」


「・・・・・・これで全部か?他にはないか?」




伯父Aはやり切れないと言った表情で話し合いを進めていった。



警察に事のいきさつを相談すること

消費者金融の相談所に行き、対策方法を教えてもらうこと

この2つだけが決まった。


長時間の話し合いの間、母は自分のために来た親戚にお茶一つ出すわけでもなく、

座布団一つ用意するわけでもなく・・・


闇金からの催促の電話が鳴れば急いで出て、ボソボソと話し、切る。

伯父Aや私が怒鳴れば家の窓やドアを閉めたり開けたりと終始落ち着きが無かった。




「そんなに大声出したら近所に聞こえちゃうじゃない。」




親戚一同にまで迷惑をかけておいて、それでも自分の立場だけを考える母に

怒りの気持ちすら消え、むなしさだけが残った。




「今日は本当にありがとうございました。

遠くから母の為に・・・これからもお世話かけると思います。

本当に・・・すみません。」


「俺はな、ゆず達の為にやってるんだ。

アイツ(母)の為じゃない。気にするな。」


「ゆずちゃん、私達がいるんだから大丈夫。

気をしっかりもってね!」


「ありがとうございます。叔母さんも気をつけて帰ってくださいね。」


「アイツは・・・見送りもしないのか。

とんでもない奴だな。」


「・・・・・・・・・・・。」



今までの話し合いがなかったかのように

母は一人、居間でTVを見ていたのだった。




つづく。

コーヒー

コーヒーの香りが好きだ。
もちろん味も好きだが。

喫茶店。
足を踏み入れると同時に漂う香り。

初めての場所でも懐かしい気がするのは、
コーヒーにまつわる思い出が多いせいか。

両親はコーヒーが好きだった。
と、言っても貧乏な我が家は
インスタントコーヒー。

父はミルクが1杯に砂糖が2杯。
母は薄めのブラック。


『コーヒーが飲みたいな。』


父が言うと…私は湯を沸かし用意を始める。

ちびっこマスターの煎れたコーヒーを
満足そうに父は飲んだ。


『ゆずの煎れたコーヒーが
一番美味しいよ。』


就職前だっただろうか。
母は私をとある喫茶店へと連れていった。


『たまには贅沢しよう。』


1杯が1000円近くするような本格的なコーヒー。


『子供にはまだ早い。』


以前はあまり飲ませてくれなかった母と…
対等になった気がした。


先日友人から行きたい場所があると
連れられて行った場所は…
あの喫茶店だった。

一瞬にしてあの日のことを思い出す。

香ばしい香り。
口に含むと広がる苦み、渋み、甘み。

だが何故だろう。
あの日の母の顔は浮かんでこないのだ。


コーヒーの香りが好きだ。
もちろん味も好きだが。

濃いめが好きな私に母が言っていた。


『そんなに濃いと体に悪いよ。』


今朝ふと、思い出す。
思わず湯を足してしまった。

だが何故だろう。
やはりあの日の母の顔は浮かんでこないのだ。

再会の果て 10


再会の果て 9 からの続きです。




日曜日がやってきた。




「みっともない状況を見せたくないから、今回は遠慮してくれ。」





という伯父の言葉に彼は納得し、話し合いに参加しないこととなった。


詳しい状況までは知らない妹を拾い、実家へと急ぐ。

伯父達はすでに到着していた。


玄関前で立ちすくむ。

これから始まることを考えると・・・なかなかその一歩が踏み出せずにいた。




「お姉ちゃん・・・。」


「あ、うん。行こうか。」




居間へ入ると伯父達はまだ着いたばかりのようで、話し合いは始まっていなかった。




「・・・ゆず達まで来たの?」




母の第一声はこれだった。なんとも呑気な発言である。


聞こえないかのように私は言った。




「今回は・・母の為に集まっていただきすみません。

本当に申し訳ないです。御足労かけます。」


「お前の母さんからそんな言葉は出なかったぞ。

本当に・・・どっちが親なんだか分からないな。」


「・・・・すみません。」


「ゆずが悪いわけじゃない。それじゃ始めるか。」




もう北海道は秋から冬になろうとしていた。

居間のストーブの上に置かれたヤカンからシューシューと音がなる。

その音がやけに耳についた。




「お前、どう思ってるんだ?こんなところから借金までして。

家賃も未納だって言うじゃないか!」


「ええっ!?伯父さんそれ本当ですか?」


「何言ってるのよ!きちんと払ってるわよ。」


「払ってるだと?お前は平気で嘘をつくんだな。

ゆず、俺はここに来る前に大家の家に行って確認してきたんだ。

どうせコイツのことだから家賃も延滞してるだろうと思ってな。

案の定・・半年払ってないそうだ。」


「半年!?」


「何言ってるのよ!ちょっとだけよ、2ヶ月くらいだわ。

半年だなんて間違ってるわよ!」


「・・・・払ってると言った後は2ヶ月延滞って言うのかお前は。

お前の言うことなんてな、誰も信用出来ないんだよ!」




ムッとした顔で母が口を噤む。




「大家も困っててな。出て行ってくれと言われたよ。

そりゃそうだろう。催促しに行っても居留守を使われ、電話をしたら逆切れ。

どうするんだお前?引越し費用もないだろう?

家もない、金もない。どうやって生きていくんだ?」


「・・・・払うわよ。」


「はっ?」


「・・・・・払うわよ、払えばいいんでしょ?

家賃くらいなんとかなるわよ。」




吐き捨てるような母の発言に私の怒りは頂点にきた。




「なんとかなるってどうすんのよ!?また借りるの?借金するの?

アンタのせいで・・どれだけ皆が迷惑してると思ってるのよ!

アンタは催促の電話しかこないから居留守ですむかも知れない。

だけど、皆は違うんだよ。

いつ職場に電話がかかってくるか・・怯えながら暮らす。

それがどれだけ精神的にキツイか分かってるの!?」


「・・・・電話?電話きたの?ゆず達に?」


「まだ・・・まだそんな呑気なこと言ってるの!?」




親戚が勢ぞろいしてるこの状況でこの発言。

皆がどれだけ参っていることか。


この話し合いが行なわれるまでの間、私の携帯は鳴りっぱなしだった。

会社にも電話がきていた。

電話を取った人は婚約者である彼に言ったらしい。



「あいつ何かあったのか?変な電話があったぞ。

いないことを告げたら「借金取りから電話があったとお伝え下さい」って・・。

大丈夫かよ?あいつ、借金するようなやつじゃないだろ?」




幸い口の堅い人だったので会社中に広まることはなかった。

妹の携帯にも何度か電話があった。


遠方の伯父(以後伯父A)の家には宅配業者を装った男が

住所を確認するような電話をかけてきたという。

そう、今から家に行くとでも言わんばかりに・・・・。


近くに住む伯父(以後伯父B)の家は自宅で開業している息子がいる為

電話を無視するわけにはいかず、取るたびに罵声を浴びせられ

精神的にかなり追い詰められていた。


そして当の本人は・・・友人がいるわけでもない。娘から電話がくるわけでもない。

借金取りからしかかかってこない電話を留守電にして放置。

そしてパチンコ屋へ行っていた。




「どうして・・皆のところに電話が・・・。

絶対電話かけないって言ってたのに・・。」


「アンタがお金の為に、皆の情報を売ったからでしょ!?

教えなかったらかかってもこないよ!」


「だって・・だって教えないとお金貸してくれないって言うんだもの。

絶対かけないっていうから・・約束が違う。」




こんな母だっただろうか。

お金を借りたいが為に、子供でも分かるようなことが分からなくなっている。


貴方がお金を返さないから、居留守を使うから・・

だからこっちに電話がくるんでしょう?

自分のことを棚にあげ、闇金業者が裏切ったとばかりに怒り出す母。




「やっぱり借りてるんだな?全部いくらなんだ?」


「・・・・ちょっとよ。大丈夫、兄さん達に迷惑はかけないから。」




次の瞬間、伯父Aは母に掴みかかった。




「ちょ、ちょっと・・!」


「お前ってヤツは・・・お前ってヤツはどこまで腐ってるんだ!」




母の髪の毛を掴みあげる。

叔母Aが慌てて伯父Aを止めに入る。




「や、やめてぇ~。兄さん、やめてよぅ。。。。」


「お前みたいなヤツは殴らないと、体で覚えないと分からないんだ!」




伯父Aの勢いは止まらず、叔母達は必死で止めに入っていた。

情けない声をあげる母。

それを見ていた妹が肩を震わせ泣いていた。




「可哀相に・・・辛いね。大丈夫よ、叔母さんがいるから。」


「嫌だ・・・もう嫌だ~~~。」




叔母Bに肩を抱かれ泣き続ける妹。


私に涙は無かった。

私だけ時間が止まったような、そんな感覚に襲われた。

怒り、悲しみ、憎しみ・・そういう感情が渦巻いているこの空間を

どこか冷めた目で見る私がいる。




これって修羅場ってやつ?ドラマみたいだな。




「お前、娘の結婚がダメになってもいいのか?

親だろ?母親だろう、お前は!

ゆずが・・・どんな想いで俺の所に電話をかけてきたか・・・その気持ちが分かるか!?

婚約者に聞こえないように車の中からかけてきたんだぞ!

そんな辛い想いまでさせて・・・。」


「・・・伯父さん。」


「・・ゆず・・あんた結婚ダメになるかもしれないの?」


「・・・・ねえ?逆に聞くけどさ、結婚出来ると思ってんの?」


「だ、大丈夫よ。お母さん何とかするから・・・・。」




笑いがこみ上げてきた。

怒りが頂点までくると笑えるのだとこの時知った。




「何とかするって?

今まで自分のこと何一つ出来なかったアンタに何が出来るっていうのよ。」


「言って。何でもするから。」


「何でも?はははっ。じゃあさ・・・・。」




グシャグシャになった髪で私を見る母の目をまっすぐ見ながら私は言った。




「死んでよ。私の前からいなくなってよ。」




借金の催促の電話が

静まり返った家の中にむなしく響いていた。



つづく。