脱!マイナス思考。~私の母はパチンコ依存症~ -5ページ目

再会の果て 9

再会の果て 8 からの続きです。




彼の両親と彼抜きで会うのは初めてだった。


彼の実家が近づくと共に心臓の鼓動が早くなる。

ハンドルを握る手には緊張からか汗がにじんでいた。




「いらっしゃい。あら?○○(彼の名前)は?」


「あ・・・今日は私だけです。彼抜きで話をしたくて。」






訪問することを伝えてはいたが、私だけだということを言わなかった為

出迎えた彼の母は明らかに動揺していた。




「いらっしゃいゆずさん。・・・・○○は?どうした?」


「それが・・ゆずさんだけで来たんですって。」


「・・・・・・・ま、どうぞ。どうぞ。」






私の思いつめた顔を見て、彼の父も何かを察したようだった。

淹れてもらったコーヒーを震える手で一口すする。

喉を通るコーヒーがやけに苦く感じた。




「最近めっきり寒くなってきたわね~。○○やゆずさん、風邪ひいたりしてない?」


「はい・・・・おじさまやおばさまは?」


「俺らはもう年だからなぁ。気をつけないとすぐ病院行きだ。ははは。」


「・・・・・・・・・・。」




すぐにとぎれる会話。

いきなり一人で来た私に、彼の両親も何を話してよいのか分からなかったのだろう。

結婚は決まっていたものの、私との接点はあまりなかったのだから。




「・・・・あのっ。」


「うん?」


「今日は・・・今日はですね・・・お話があって伺いました。」


「何かしら?」





泣いてはいけない。

決して泣かずに話を済ませようとあれだけ思っていたのに・・・

次の瞬間からは涙声になっていた。




「わ、私は・・・・お二人に謝らなければならないんです。。。

本当に本当にっ・・・申し訳ないです。すみませんっ・・・・。」


「ど、どうしたのゆずさん!?」


「何があったんだ?」


「・・・・・母がお二人を裏切ったんです。

パチンコを辞めた、借金はきちんと返しているというのは嘘で・・・

新たに借金を作っていました。」


「ええっ!?でも借金は借りられなくしたって・・・。」


「・・・つまり、そういう人でも借りられるような所にってことか?」




体がビクッとした。

そして私は・・・こくんと頷くと再び息を整えながら話を続ける。




「そうです・・。良くない所から借金をしているんです。

どうやらそれは、最近の話ではなさそうで・・・。」


「お母さんは?何て言ってるんだ?」


「母とは話していません。」


「じゃあどうして・・・・。」


「私の携帯に借金取りから電話がありました。

金を返せ。返さなかったら母の勤め先へ乗り込むぞ。と・・・。」


「・・・・・・・・・。」


「母はお金を借りる為に・・・・わ、私や・・・妹の携帯番号・勤め先、

親戚の住所などをすべて相手に教えました。

いつ私達のところへ電話がくるかわかりません。

私は・・・・母が、母が許せません。

自分の道楽の為に、皆を巻き込む母が・・・・。」







沈黙が続く。

淹れてもらったコーヒーの波紋も、もう消えていた。




「○○さんやお二人にもご迷惑をかけることになるかもしれません。

いや・・・現時点ですでにもうかけてますね。。

本当に・・・申し訳ありません。

母のっ・・・母のせいで・・・・。」


「ゆずさん。」


「はい。」


「迷惑なんかかかってないよ。」


「・・・・・かけてるじゃないですか。

結婚を祝福して頂いたのに私は裏切ったんです。」


「ゆずさんじゃない。お母さんだろ?」


「でも私の母です。このまま結婚なんて出来ませ・・・・」


「ゆずさん!ゆずさんの気持ちはどうなんだ!?

○○とはもう、結婚したくないのか?」


「私の気持ちとかの問題じゃ・・・。」


「○○はどう言ってるの?」


「○○さんは・・・・一緒に乗り越えようと言ってくれました。」


「なら・・・・それでいいじゃないか。」


「でもっ!」


「結婚は本人達の気持ちが一番大事なんだよ。

ゆずさんも○○も、お互いを思う気持ちは変わらないんだろう?

それならいいんだ。俺達は・・自分の子供が幸せになることが一番なんだから。」


「・・・・・・・っ。」


「結婚したいと思う気持ちは変わらないんだろう?」


「・・・・はい。」


「なら気にするな。これからの事は、皆で乗り越えればいいじゃないか。」


「おじさま・・・・。」




涙で・・・前がよく見えなくなっていた。

これは夢ではないだろうか。

私の頬をつたう涙は・・・悲しみの涙になるはずだったのに。



心が・・温かいものでいっぱいになる。



私の冷たくなった手を、さすりながら彼の母は言った。




「貴方・・・ここまでどんな想いで一人で来たの?

辛かったでしょう。心細かったでしょう・・・・。

こんな想いをさせて・・・お母様も早く立ち直って欲しいわね。

本当に・・・私までせつなくなるわ。。。。」


「わ、私・・・・。」





温かい手。


こらえていたものがあふれ出す。

大声をあげて泣いた。


一緒に泣いてくれる人がいる。

一緒に辛さを分かち合う人がいる。



私はもう、ひとりじゃないんだ―



帰宅した私を彼は満面の笑みで迎えた。

彼の言うとおりだった。




「貴方のご両親はすごい人ね。羨ましいわ。」


「・・・ゆずの親にもなるんだよ?」




嬉しくてまた涙が溢れた。

ああ、私は世界一の味方がついたかもしれない。

神様は私を見放してはいなかったのだ、と。



そして母との話合いが始まろうとしていた。



つづく。

再会の果て 8

再会の果て 7 からの続きです。





「話があるの。」


「なんだ?改まって。」






なかなか口には出せない。


この話は別れ話になるのだから。


沈黙が続く。


彼はその間に何かを悟ったようだった。




「・・・・昨日携帯に、借金取りから電話がきたの。」


「はぁ!?借金取り!?でも・・お母さんはもう・・。」


「ブラックリストに載っていても借りられるところから借りてるみたいで・・。」


「マジかよ・・・それって良くないところってことだろ。」


「うん・・・返さないなら家や会社に乗り込むって言ってた。」


「・・・で?お母さんには何て?」


「何も言ってないよ、伯父さんには相談したけど。

来週の日曜に親戚で集まってお母さんを問い詰めるよ。」


「・・・俺もその集まりに行くよ。」


「ええ!?何言ってるの?」


「俺も行く。お母さんに一言言わないと気が済まない。」


「・・・・騙したことになるからね・・貴方を。」








結婚申し込みの挨拶の時、彼は母にこう言っていた。




「僕はゆずさんを幸せにします。それは約束します。

だからお母さん、貴方も僕達を裏切らないと約束してください。

もう借金はしない。パチンコはしないと。」





この言葉に涙を流しながら頷いた母。

が、この時点ですでに「闇金」から借金をしていたかも知れないのだ。


腹立たしいだろう。

彼の言い分ももっともだった。


あまりの急展開でバタバタしていた私も・・

彼と話すことで母への憎しみが湧いてくる。




「貴方の気持ちも分かるけど・・でも親戚だけで集まるから。」


「俺だって家族だろ?違うか?」


「・・・・結婚・・出来るわけがないじゃない。」


「なんで?」


「なんでって・・・・結婚は私達だけの問題じゃない。

貴方の両親、親戚も巻き込むものなのよ。

私の親のせいで、貴方や貴方の両親に迷惑がかかるかもしれない。」


「俺はゆずのお母さんが借金を抱えてることを知った上でプロポーズしたんだよ?」


「それはお母さんが一生懸命頑張って借金を返しているという話の時でしょ!

結局お母さんは・・・私どころか・・貴方や貴方の両親まで裏切って・・・

影でコソコソ借金を増やしていたことになるんだから!」


「そうだけど・・・じゃあゆずはどうするんだよ!?」


「どうするんだろうね・・とりあえず会社の退職願出しちゃってるし・・

分からないや、ははは。」


「俺は別れる気はないよ。」


「・・・・・どうしてよ。。どうしてそういうこと言うのよ。。

ダメなものはダメなの。結婚出来るわけないの!」


「俺の親が反対すると思ってるのか?」


「当たり前じゃない。どこの世界に「闇金」から狙われてる家族と親戚になろうとする

人がいるのよ。息子の幸せを願う親なら反対するに決まってるでしょ!」


「ゆず・・・俺の親はそんな親じゃないよ。」










正直この時、彼のことを「あまい」と思った。


好きだの愛してるだのだけでは結婚は出来ない。


そんな危険な状況になっている女を嫁にして迎えるわけがないだろうと。




「とりあえず・・親にはまだこの話を伏せておくから

親戚の集まり、参加させてくれ。」


「どういうこと?」


「何かいい案が浮かぶかもしれない。まだ何とかなるかもしれない。

そしたら・・別れる理由も無くなるだろう?」


「貴方の両親を騙すことになるじゃない。」


「解決した後に言えばいい。違うか?」


「・・・それじゃ私まで貴方の両親を騙しているような気がする。」


「えっ?」


「両家の顔合わせの時・・母は言ったわ。

「もうパチンコはしません。借金も完済します」と。

普通ならその時点で関わりたくないと思う人もいるだろうに・・・

貴方の両親はそれを全部引き受けてくれた。理解してくれた。」


「そうだよ。」


「でも母は裏切った。」


「・・・・・・・・・・・。」


「私はすべてのことを話した上で結婚するなり、別れるなりしたい。

母がこんなことをしたからこそ、余計に。」


「・・・・分かった。じゃあ一緒に実家へ行こう。」


「いや、一人で行く。貴方は来なくていい。」


「どうして?」


「ご両親だって・・貴方の前じゃ言いにくいことだってあると思うの。

一緒に言って話した時は理解してくれても、後からやっぱり・・ってことだってあると思う。

私、1人で全てを話してくる。それがせめてもの誠意だと思うから。」


「・・・・・・・・・・・・・。」






本当は・・怖くて怖くてたまらない。

彼が横にいてくれたらどんなに気が楽だろう。


母がしでかしたことを・・1人で説明するなんて。

責められるだろうか。ののしられるだろうか。


私はどんな言葉で詫びれば良いのだろうか。





「分かった。1人で行ってこい。」


「うん。ありがとう。」


「でもな、これだけは言っておく。

俺の両親はこんなことでガタガタいう人間じゃない。

だから・・きっと分かってくれるはずだ。」


「・・・・・・・・・・・。」






そして―


彼の実家へ車を走らせる私がいた。



つづく。

再会の果て 7

再会の果て 6 からの続きです。




「要はアンタ、親に売られたんだよ。」



















悲しいことに男の言うとおりだった。

携帯を持つ手までもが震え、言葉もうまく出てこない。




「ゆ~ずさん、聞いてます?」


「・・・・はい。」


「とりあえず明日までに1万入金してくれたら、妹さんに電話したりしないよ?

俺間違ったこと言ってる?貸した金を返せって話。」


「・・・・そうですね。」


「お母さんより娘さんの方が話が早そうだ。

なんなら全部払っちゃってよ。」


「そんなの・・無理です・・。」


「俺の親もろくでもない親だけどさ~、アンタの親もろくでもないよな。

どうせギャンブルだろ?この借金。

ギャンブルの為に娘のことを売るかってな~。

ウチがその気になればそっちに取り立てに行くことだって出来るんだぜ?」


「えっ・・。」


「会社の前に借金取り。どう思う?会社にいられるか?」


「・・・・・・・・・・・・。」





私は会社に退職届けを出したからまだいい。

が、それを母の会社でされたら・・・母の収入源が無くなってしまう。

妹の会社でされたら・・親戚の会社でされたら・・・

母のせいで皆路頭に迷うことになってしまったら・・・・。



「親が借金取りに追われてるなんて、娘も結婚できないかもな。」



この一言で、私は改めて自分の状況がとんでもないことになっていると気づいた。

結婚・・そうだ、私は結婚することになっているのに・・・。

彼のご両親にも「母は頑張って借金を返しています。大丈夫です。」と言ったのに。




彼とは・・・もう終わりだ。





「もしもし?どうするの?」


「・・・今、仕事中なんです。

明日折り返すってことでいいですか?」


「明日まで待って何か変わるのかよ?」


「母に・・母に確認しますから。」


「へっ。無駄だと思うけど。まぁ、こっちはアンタから電話がこなかったら

妹さんに電話すればいい話だから。」


「必ずかけますから。」




こうして1時間近い電話は終わった。


会社からの帰り道、私は実家の前を素通りし自分の家に到着した。

母に電話したところで、逢ったところで何も状況が変わらないことが分かっていたからだ。


ただ・・なかなか家の中に入れない。

家の電気が消されている。彼は先に眠ったのだろう。


車の中でひたすら考える。

どうすればいいのか。どうすることが最善なのか。




「やっぱり・・私だけじゃ無理・・・。」






申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、私は伯父に電話をかけた。




「・・・・・はい。」


「もしもし。夜分遅くにすみません。ゆずです・・。」


「・・・・何かあったのか?」


本当にすみません!本当に・・・申し訳ないです。すみません。。。」






母のやることがまた親戚を不幸にする。

私がもっとしっかりしていれば親戚を巻き込むこともないだろうに。

母のしでかしたことを詫びているのか、伯父を頼った自分を責めているのか・・

涙が止まらなかった。




「とりあえず分かった。いいか、絶対金を払っちゃダメだ。1度でも払うと大変なことになる。

取立てに来るというのもデタラメだ。東京から来る旅費を考えたらそんなことは絶対無い。」


「でも・・妹に電話するって・・・。」


「それはあるかもしれない。アイツには知らない番号からかかってきたら出るなと言え。

会社は・・もしかしたらかかってくるかもしれないな。」


「・・・・・そうですか。」


「お前も電話には一切出るな。分かったな。

次の日曜に集まろう・・これは電話で済む問題じゃない。」


「・・・遠いのにすみません。母のせいで・・。」


「俺はな、妹であるお前の母さんよりもお前達が心配なんだ。

なんなら養子にしたっていい。

お前・・今どこからかけてきてるんだ?」


「車の中です。」


「・・・・・可哀相に。婚約者がいるから家の中に入れないのか?」


「はい・・・いたら・・こんな話は出来ませんから。。。」


「とりあえず、この話は伏せておけ!

こんなことが相手の両親に知れたら結婚も無くなるに決まってる。

いいか、お前の為に言ってるんだぞ。

今までとは訳が違う・・・・「闇金」ってところはそれほど恐ろしいんだよ。」


「・・・・はい。分かりました。」




電話を切り、泣き顔が消えるまで車の中で過ごす。

彼が私の物音で起きてくるかも分からないからだ。


静かな部屋の中。


電気をつけるとソファには彼の脱いだ洋服が。


台所には今朝使った食器が。


2つ揃ったおそろいのコップ。

どうしても欲しくて遠くまで買いに行った食器。


1つ1つの物に詰まった想い出が湧いて出て・・

私は彼に気づかれぬよう、声を殺して泣いた。




同棲して良かった。


貴方の為に食事を作ったり洋服を用意したり

貴方の寝顔をこうして見ることが出来るのも同棲したから。


結婚式場を選んでいる時にサービスで撮ったウエディングドレス写真。

撮って良かったね。もう着ることは無いんだもの。


あの写真と数ヶ月一緒に過ごした想い出があれば・・

私はなんとかやっていける。やっていけるはず・・。



寝ている彼の頬にキスをした。



愛しい・・愛しい・・



けれど彼を巻き込むわけにはいかないのだ。

そう・・愛しているからこそ。



明日、彼にすべてを話し別れる。

そう決意した。



つづく。

再会の果て 6

再会の果て 5 からの続きです。




結婚というもの。


それは自分達だけの問題ではない。


互いの両親、兄弟、親戚・・いろいろな人が絡んでくる。


それを身をもって知ることになろうとは・・・。



親への挨拶、両家の顔合わせもすまし会社へ「退職願い」も出した。

結婚への準備は着々と進んでいたのだか・・

ある一本の電話が事態を急展開させる。



それはもう雪が降るかと思えるほど寒くなった11月のある日だった。




「今日は深夜コースだね~。」


「いいとこ0時かな?」


「うわ~~キツイな、それ。」




事務員として働いていた私は会社で残業。

締め日はいつも深夜まで。


この締めも・・あと何回かで終わるのだ。

文句を言いながらも仲間同士で楽しくやっていた締め。

結婚して辞める私は・・なんだか寂しい気持ちになっていた。




「あれ?誰か携帯鳴ってません?」


「ん?私かな?」




携帯には見慣れない番号。

「03」で始まる番号にワン切りだと思った私はそのままにしておいた。

が、その電話はそのまま鳴り続ける。




「出ないんですか?」


「え~。だってワン切りだと思うんだよね。」


「でもワン切りにしてはしつこいような・・。」


「・・・だよね。」




どうしてだろう。

なんだかものすごく嫌な予感がしたのだ。




「・・・もしもし?」







次の瞬間、私の顔は引きつっていただろう。

後輩に電話の内容を悟られないよう、私は外へ出た。




「もしもし?」


「あーー、あなた、ゆずさんですよね?」


「え?ってかあなたこそ誰ですか?」


「ゆ~ずさんですか~?」


「一体何ですか?電話をかけてきた貴方の方から名乗るのが

当然だと思いますが。」




相手の男の、人をナメているような態度に私は強気で対応した。




「俺?ははは、ゆずさんのお母さんにお金を貸したものですよ~。」


「!?」


「ゆずさん、お母さんいるでしょ?」


「母の名前を言ってみてください。」





男は私の母の名前を言った-




「お母さんで間違いないですよね~?」


「・・・はい。」


「じゃあ話は早い。お母さん、期日を過ぎてもお金を返さないんですよ。

電話しても出ないしね~。

で、娘さんに代わりに払ってもらいたいんですよ。」


「ちょっと待ってください。うちの母は消費者金融のブラックリストに載っていて

お金を借りることが出来ないはずです。」


「あ~~、そういうの、ウチ関係無いから。」


「関係ないって・・・。」


「借りたものは返す。これ、人間として常識でしょ~?ゆずさ~ん。」


「・・・・・・・・。」


「とりあえず明日までに1万円でいいから振り込んでくれませんかね?」


「・・・・一体母はいくら借りてるんですか?」


「あ~どうだったかな。とりあえず1万でいいよ。10日後にまた1万。

利息分だけでも返してもらわないと困るんだよね。」


「母に確認してからじゃないと・・。」


「確認出来ないんじゃないの~?連絡つかないよ、御宅のお母さん。

借りる時だけペコペコしてさ、返す時は居留守。

本当いい根性してるよね~。」


「・・・・・・・・・・・・。」


「信用出来ないかもしれないけどさ、よく考えてみてよ。

ウチから金借りるなんてよっぽどの人だよ?

アンタだって今まで散々泣かされてきてるんじゃないの?」


「・・・・・・・・・・・。」


「なんなら妹さんに電話したっていいよ。

それかお母さんの会社にでも。」


「えっ・・ちょっと待ってください。どうして妹の番号まで・・。」






「あ、気づいてないのアンタ?アンタのお母さんはね、

たかが3万や5万の金を借りる為に娘や親戚の電話番号を全部書いたんだよ。

アンタの携帯、会社の番号、親戚の勤め先や住所まで全部ね。


要はアンタ、親に売られたんだよ。」


「っ・・・!!」





頭の中が真っ白になる。


怒り?怖さ?それとも外の寒さなのか?

足がガクガクと震えてきた。


冷たくなった頬を熱い涙が伝う。

それは今の状況が夢ではない、現実だということ突きつける。





私は母に・・・売られたのだ。





つづく。

再会の果て 5


再会の果て 4 からの続きです。



あの時の出来事を境に、私は自分のことだけを考えるようにした。


母が何をしようと関係ない。妹がどうなろうと関係ない。


心の奥底では心配で心配でたまらなかったが、

その気持ちが相手に伝わってしまったら・・甘えてくるに決まっている。

そう思っていた。



私が今までやってきたことは何だったのだろう?



母が一日でも早く借金を完済出来るようにと

自分の事を後回しにして協力してきたのに。


母に裏切られたことで傷ついている妹が少しでも気晴らしになるのなら・・と

家の中では妹の好きなようにやらせていたのに。



結局自分に使えるお金は無い。居場所も無い。




「お姉ちゃん、引越しのことなんだけど・・・。」


「私は一切タッチしないから。」


「最近顔見せないね・・。」


「仕事で忙しいから。辞めるから引継ぎもあるし。」






私は貴方達の何?世話役?

なんで「結婚の準備はどう?」の一言が出てこないのか。


苛立ちを通り越し、呆れて話をすることすら吐き気がする。


そんな私を可哀相に思ったのか彼は




「新しい家に置く家具はお前の好きなようにしたらいいよ。

俺はなんでもいいから。」




と、言ってくれた。


休日になると二人で家具を見て回る。

自分のことにお金を使うことがこんなに楽しいとは思わなかった。



妹とは別れの言葉もろくにないまま、私は彼との新しい生活の場へ引越した。


籍を入れるのは母が借金を完済してから。その気持ちは変わらない。


だが、居心地の悪い「場」から逃げ出したくて・・

彼との同棲に踏み切ったのだ。



好きなモノに囲まれ、愛する人と一緒に時を過ごす。

これからずっとずっと・・そんな日々が続いていくのだと思っていた矢先に・・



1本の電話が私の元へとかかってくるのである。


今までも・・これからも・・

決して忘れることのないだろうその電話が・・。




つづく。